『いぼ痔(痔核)』とは?

いぼ痔(痔核)とは?
『いぼ痔(痔核)』とは?

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寺田 俊明 Toshiaki Terada

寺田 俊明Toshiaki Terada

  • 理事長
  • 院長
  • 大腸肛門病センター長

寺田病院HP:
https://terada-hospital.or.jp/

『いぼ痔(痔核)』は病気ですか?

まず
『いぼ痔』は俗称であり、医学的な正式病名を『痔核』といいます
『いぼ痔(痔核)』は病気ですか?
→いいえ!すべての痔核が病気ではありません!
痔核ができるのは人間である以上当たり前。その内容は後で話しますが、
痔核自体による症状(痛み、出血、脱肛、かゆみ・・・・など)が現れてはじめてそれが病的な痔核といえるのです。
たとえば・・・・
足の裏のかかとが硬くなっているのは病気ですか?
人間歩くようになれば、赤ちゃんのかかとみたいに“ぷにぷに”じゃなくなってきますよね?
足のかかとが硬くなってくるのは病気ではありません。
つまり、人間が排便する、2足歩行している動物であれば、『かかとが硬くなってくる』のは当然ですし、排便で肛門を使っていれば肛門の奥の便を溜めておく部分が多少腫れてくるのは当然で、それが『いぼ痔(痔核)』の発生部分です。
ただ・・・・足のかかとも 硬いところが裂けて痛くなったり、出血してきたら困りますよね? いぼ痔も同じで、、、腫れて 出血したり、痛くなったりした症状が出てくると病気としてとらえます。

足のかかとの割れも軟膏をつけるように、『いぼ痔』も症状がでたら薬で症状を改善させようとします。最初のうちは症状もすぐよくなるのですが、だんだん症状が出る機会が頻回になってきて、薬ではなかなか治らないようになってきてしまいます。

そもそもなんで『いぼ痔(痔核)』ができるかというと・・・・
先ほどのコンビニの“ガラス扉”を思い出してください。
1年のうちに夏の暑い日もあれば雪が降る寒い日もあります。
その“ガラス扉”に付いている“ゴムの部分”も何年か経ってくれば当然劣化してきて、破けたり、溶けたりしてきます。
そうなると、、、“ゴムの部分”はごつごつしてきて“ピシャッ”と扉は締まらず、隙間風が入ってきてしまいますよね。

肛門も“ガラス扉”と同じように・・・・長い間、便秘で力んだり、踏ん張ったり、下痢、妊娠・出産で強く力んで肛門に負担がかけていくと・・・・
“粘膜のたるみ”の下にある静脈還流が悪くなり便を押さえておく『粘膜のクッション』がうっ血して、さらに腫れて充血してきたものが『内痔核』です。

つまり
『粘膜クッション』=『自動扉のゴムの部分』
『内痔核』=『自動扉のゴムの部分の劣化』
と考えるとわかりやすいと思います。

『痔』は痛い?

さて
『痔』は痛い!っていうイメージがありますよね
外来でよく『肛門から何かが出てきてると思うんですけど・・・痛くないんです。痔ではないですよね?』とご来院する患者さんがいます。
痛くないから『痔』ではないというイメージを持っている人が多いというエピソードです。
肛門付近の痛みの話をするのにはまず、人間の肛門付近の構造の予備知識を追加してお話ししとかなければいけません。
肛門のでき方(発生)とその仕組み(解剖)を簡単にお話します。
肛門はどのようにしてできたのでしょうか?
赤ちゃんが、お母さんのおなかにできたての時は、おしりの皮膚にくぼみがあるだけでまだ肛門はありません。
だんだん成長するにつれて徐々にそのくぼみが、深くなってきて、同時に上からは腸が徐々に下がっていきます。そして胎生7~8週(妊娠2か月)でドッキングしてお尻に肛門が形成されます。
このドッキングがうまくいかないで生まれてきてしまう赤ちゃんの病気を『鎖肛』といいます。出生した赤ちゃんの数千人に1人くらいの割合で発生します。

直腸と肛門のドッキングした『でこぼこしたつなぎ目』を『歯状線(しじょうせん)』といいます。
先ほどもお話した『喉元過ぎると熱さ忘れる』の『喉元』の部分ですね。
もうちょっとだけこの『歯状線』をわかりやすく言うと子供が折り紙と折り紙を、のりでくっつけた境目の部分と考えてみてください。

『歯状線(しじょうせん)』=『折り紙の のりしろのつなぎ目』
つまり、別々のものをつなげた『つなぎ目』の部分です。
この歯状線を境に上が『直腸』で下が『肛門上皮』『肛門皮膚』と臓器が違うので支配している神経も異なります。

ポイント!

『直腸』=痛みがない
『肛門上皮』 『肛門皮膚』 = 痛みに敏感

という感覚の違いが生まれるのです。
つまり、内痔核部分(直腸下部粘膜)には痛みの神経がありません!

膨らんできても痛みを感じにくい部分であり、痛くないからこそ、注意を怠ってしまうわけです。

ポイント!

内痔核が徐々に大きくなってきても症状はない。
症状がなければ悪くなってきているのもわからないので、症状が出てくるまで、肛門に負担をかけて悪くしてしまう。

いぼ痔の出血

逆に言うと・・・症状の乏しいうちは、『いぼ痔(痔核)』を、病気ととらえる必要もありません。だって・・・生きているうちは一生、毎日、肛門を使用するわけで、もともと痔核が全く腫れていない人なんているわけないのですから・・・・。

便秘がちな人や排便時力み癖のある方、トイレの時間が長い方は“将来そのままだと痔の症状が出てきちゃうよっ!”って気をつけておくくらいでいいわけです。
でも・・・・・
さらに内痔核が大きくなってくると内痔核から出血するようになってきます。
例えるならば風船に赤い絵の具の液体を入れて膨らませ・・・
表面を擦ることでその弱い部分からじわっと赤い液が出てきてしまうイメージです。

『いぼ痔(痔核)』は『粘膜クッション』の内部の血が充血してくるわけですから、腫れが強くなってくると、やはり風船のようにじわっと出血するようになり、もっと大きくなって破裂すると大出血をしてしまいます!!
しかし・・・破裂するといったんしぼんで、しばらくはおとなしいのですが、また同じように腫れてきます。それが先ほどお話しした『主痔核』で代わりばんこに出血がを繰り返されると・・・・・
さすがに、だんだん貧血になってきてしまうわけです。
『いぼ痔(痔核)の出血』=『風船の破裂!』

内外痔核

ですが・・・なかには出血の症状に気づかない方もたくさんいますし、実際に出血せず膨らんで大きくなっている『いぼ痔(痔核)』もよく見かけます。
まあ、実際に、わずかに出血していたところで、その方が気づいてないということも多いですし。
ですが・・・・知らぬ知らぬの間に『いぼ痔(痔核)』に負担をかけているうちに、
さらに内痔核が大きくなり外痔核部分まで腫れてくると肛門の外から触るようになり、痛みも伴うようになります。これが『内外痔核』です。

自分が内痔核だと知っても知らなくても・・・・人間は前述のように2足歩行で排便をする動物である以上 内痔核部分が徐々に増悪してくると、だんだん肛門の外まで痔核が腫れてきて“内外痔核”となってくると・・・
肛門を触ったときに『あれっ!痔が出てきた!大変だあ』となるわけです。
『先生、急に痔ができちゃいました!』と来院される方も多いですが、結局内痔核ができ、それが腫れて→引いてを繰り返し、外痔核まで腫れるようになるには何年もかかっているわけで・・・・30歳の方なら30年物。50歳の方なら50年物の痔核というわけですね。ウィスキーも50年物だとかなり熟成されてますもんね。

さて、ここで、『痔核』そのものを『氷山』に例えてみます。
そう、あの豪華客船タイタニック号を沈めたあの『氷山』です!
当然『氷 こおり』ですから『氷山』は海の水が凍って塊になります。つまり、海面の下で氷ができます。
海面の下ですと海の上から氷があるのはわかりませんよね。これを『内痔核』と例えましょう。氷がだんだん大きくなってくる→内痔核が大きくなってくると海面の上に氷が浮かんで出てきます。これが→外痔核です!
つまり『氷山』全体が『内外痔核』で
『内外痔核』=『氷山』
というわけです。

ちなみに、
『血栓性外痔核』という病気で、患者さんが多く外来に来院されます。
これは
強い力みや、下痢で何度もトイレに行ったり、スキーなどで肛門を冷やした後に、急に外痔核のみ腫れがひどくなる(内痔核はあまりひどくないのに)ことがあります。『氷山』の例えだと

こうですね。
これは、肛門の細い血管が破れて血栓(血豆)を作ってしまう状況です。外痔核部分の腫れですので、腫れが強くなってくると痛みが強くなってきます!

ただ、この場合は内痔核の繰り返しの結果で内痔核が肛門の外にもできてきた。というものではなく一時的な外の腫れですから外痔核の腫れを抑えるために軟膏を塗って、肛門を温めておけば自然と外痔核はしぼんできます。(よっぽど大きく腫れて血抜きしてあげなきゃいけないもの以外は保存的に治ります)。しぼんでくると痛みは引きます。
腫れが引いて、痛みは弱くなってもしこりは少し残ります。
腫れが引いて、しこりが小さくなっても、腫れてしまった時に伸びた皮膚は伸びたまま残ってしまいます。これを『皮垂(ひすい)』(スキンタッグ)といいます。
太っていた人がダイエットして痩せるとおなか周りに皮膚のたるみができるのと一緒です。
『皮垂(ひすい)』(スキンタッグ)=『ダイエット後の皮膚のたるみ』

皮垂(ひすい)は皮膚のたるみですから美容的には良くなくても、痛くはありません!
ですが、この皮垂(ひすい)にて便が拭きにくくなってきたり、かぶれたりする原因であれば切除の適応にはなってきます。

脱肛

話はそれましたが・・・
『内痔核』や『内外痔核』の状態でさらに圧力が加われ続けると・・・・
結果的に『痔核』が筋肉とくっついている土台の部分(痔核と内肛門括約筋の間の靭帯)が緩るんできてしまいます
すると・・・肛門の外に大きく『痔核部分』が飛び出してきます。
勘違いしてはいけないのは・・・・内外痔核の状態は脱肛ではありません!!あくまでも
『脱肛』は読んで字の如く、『肛門から脱出する』という意味です。
外痔核はもともと肛門の外のものなのですから、本来肛門の中にある
内痔核が肛門から脱出するという現象を『脱肛』と言います。

これは例えるならば 雪崩(なだれ) と同じです。
ただし、積雪した雪の表層だけ 腸の層の一番表層の『粘膜部分』だけの脱出です。

つまり 『痔核の脱肛』=『表層雪崩(なだれ)』 です。
では全層雪崩(なだれ)なんてことはあるの?
といわれると・・・あるんです。『直腸脱』と言って、おしりから腸がでてきてしまう病気が・・・・・・・・・・この話はまたあとで。ほかの章で話します。
ですから・・・もともと中にあった内痔核部分は押せば肛門の中に入るわけです。
(外痔核部分は入りませんが)
脱肛して『痔』が出っぱなしだと、『外痔核』が腫れて痛くなったりしますから、人間は『痔核』を肛門の中に押しこみます。これを『還納(かんのう)』といいます

この脱肛の分類が痔の有名な分類で『Golliger分類』といいます。

ですから痔核の分類は脱肛の程度の分類であり、決して進行すると痛みが強くなったり、出血がひどくなるという分類ではありません!
さて、、、『脱肛』を呈するようになるといろいろな症状がでてきます。

脱肛の症状

  1. 脱出を手で戻すめんどくささ
  2. 肛門のしまりが悪い→腸の液や便の漏れ→下着を汚す→肛門周囲の皮膚のかぶれでかゆい
  3. 残便感、違和感、便の切れが悪い

ですが・・・このような状態になって、やっと自分が『いぼ痔(痔核)』であることに気づかされ軟膏を使い始める方も多いのですが・・・
時すでに遅し!
緩くなってしまった痔核の土台の部分(痔核と内肛門括約筋の間の靭帯)は、もう軟膏や坐剤では治らないのです・・・

嵌頓

ですが、痛くなければ、違和感が強くてもまだ放置される方も少なくありません!
脱肛した『いぼ痔(痔核)』を排便のたびに戻す毎日・・・・
最近は排便の時以外にも、立っててもでるようになってきた・・・・とか
ゴルフのパターをする時、ラインを見ようと腰を下ろした途端に脱肛とか・・
もうめんどくさい・・・と思いながらも放置していたら・・・
ある時、急に脱肛した痔核部分の腫れがひどくなり、肛門の中へ入りづらくなって、みるみる腫れてきて激痛になってきた!!!と突然とんでもないことが起こることがあります!!
肛門の外に出た痔核が肛門の筋肉で締められて外痔核部分がさらにうっ血し、激痛を呈します。この状態を『嵌頓(かんとん)』と言います。

これを例えるならば・・・・・
指にはめた指輪が抜けなくなった!!
指の先が青く腫れて痛くなった!!という状態といとわかりやすいでしょうか?

『痔核の嵌頓状態』=『指輪が抜けなくなって腫れて痛い!』

嵌頓状態になってしまったら・・・・
痛いからと言って、すぐに手術をすることは賢明ではありません!まずは、肛門科の専門の先生に診察室で、もしくは手術室で戻してもらいましょう(還納)。
そして、痛み止めや、軟膏、坐薬を使用しつつ、入浴や坐浴で腫れた部分の血液循環を良くさせて腫れを引かせるのが重要です。腫れが引いて痛くなくなっても、再び脱出して痛くなる可能性があるため、いずれは根治術をしたほうがいいですね。
つまり『脱肛』するようになったら軟膏・坐剤や保存的には治らないわけですから・・・なんとかしておきましょう! 

ポイント!

『痛み』や『出血』は軟膏坐剤にて腫れを押さえれば症状は軽快する。
しかし、『脱肛』は軟膏・坐剤では症状は改善しない。