『あな痔(痔瘻)』と関連する腸の病気

『あな痔(痔瘻 じろう)』とは?
『あな痔(痔瘻)』と関連する腸の病気

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寺田 俊明 Toshiaki Terada

寺田 俊明Toshiaki Terada

  • 理事長
  • 院長
  • 大腸肛門病センター長

寺田病院HP:
https://terada-hospital.or.jp/

肛門のつなぎ目は誰にでもあるわけですし、排便は誰でもするわけですから『あな痔(痔瘻)』は誰にでも起きうる病気ということになります。
ただし腸の病気により、『あな痔(痔瘻)』になりやすいという方が一定数います。
どいうことかというと、肛門陰窩に、ばい菌が入りやすいような環境を作り出してしまう病気があります。
腸粘膜は粘液というコーティングで、ばい菌が侵入してこないようにガードされています。ただ、このコーティング(粘液)が剝がれてしまうような病気があるのです。
腸の慢性炎症の病気で、『炎症性腸疾患(IBD)』と呼ばれており、『潰瘍性大腸炎(UC)』『クローン病(CD)』といった病気です。
一時的な急性腸炎とは違い、長い間持続的に腸の炎症を起こしてしまう病気です。
そうすると炎症のある腸の粘液は剥がれ、下痢しやすくなります。

『潰瘍性大腸炎(UC)』の多くは下部直腸(いわゆる肛門陰窩のごくごく近い)から発症することが多く、肛門陰窩の炎症や、下痢便のため便汁が肛門陰窩に侵入しやすくなる原因を作り出しやすいため、結果的に痔瘻を形成する環境を作ってしまいます。
『クローン病(CD)』は腸や肛門の潰瘍ができやすく、そこからばい菌が入りやすい状況になります。

ですから、

ポイント!

『あな痔(痔瘻)』になってしまった方は
・『たまたま、肛門陰窩にばい菌が入ってしまった』
・『炎症性腸疾患を密かに患っており、結果的に肛門付近からばい菌が入ってしまった』
を区別しておく必要があります。

そのためには必ず大腸の内視鏡検査が必須です
大腸内視鏡検査にて炎症性腸疾患(IBD)が疑われない場合は『たまたま、肛門陰窩にばい菌が入ってしまったあな痔(痔瘻)』
→手術で治る(完治)

『炎症性腸疾患(IBD)を密かに患っており、結果的に肛門付近に、ばい菌が入った』もしくは『もともと炎症性腸疾患(IBD)の治療をしていたが、結果的に肛門付近に、ばい菌が入った』
→炎症性腸疾患(IBD)の治療を開始、もしくは継続したうえで、最小限の肛門手術(処置)にとどめておく必要があります。

そもそも『あな痔(痔瘻)』が炎症性腸疾患(IBD)発症(腹痛、血便、下痢など)より前に現われて、大腸検査した結果、炎症性腸疾患(IBD)が見つかるといったケースがよく見られます。
『あな痔(痔瘻)』を契機に、自分が前からおなかが緩かったのは、ただ単に『下痢症』や『過敏性腸症候群』ではなかったんだ!と気づかされる方も多いのです。

クローン病(CD)が原因でできる『あな痔(痔瘻)』はいわゆるお話ししてきた典型的な、肛門陰窩からばい菌が入った『あな痔(痔瘻)』とはかなり形態が違い、浅い『あな痔(痔瘻)』がたくさんできます。肛門の専門医が診ればそれだけでクローン病(CD)の疑いを見分けられます。
クローン病(CD)の『あな痔(痔瘻)』治療は患者さんのクローン病(CD)の状態や肛門の『あな痔(痔瘻)』の状態で決定されます。まずはクローン病(CD)の治療をしっかりと行います。これにより腸炎の状態が改善すればそれにつれて肛門の症状も良くなってくるのです。
ただし、膿みが溜って痛みが強ければ、皮膚を少しだけ切開して膿みを出します(切開排膿)。『あな痔(痔瘻)』に対しては通常のように手術をしてしまうと傷が治りにくかったり括約筋がひどく損傷したりしてしまうので、「シートン(seton)法」で持続的に膿みが出やすく、感染が奥に拡がらないようにする処置に留めておきます。腸炎の状態が薬で軽快してくれば、『あな痔(痔瘻)』は次第に浅くなり、最終的には僅かな痕跡を残すだけで最小限のダメージで肛門の症状はおさまって来ます。