『あな痔』『穴痔』は俗称であり、医学的な正式病名を『痔瘻(じろう)』といいます
まず痔瘻を説明するのに欠かせない肛門の構造の理解が必要です。
『肛門の発生』を思い出してください
直腸と肛門のドッキングした『でこぼこしたつなぎ目』である『歯状線』
はもともと『直腸』のもとになる臓器と『肛門』のもとになる臓器のつなぎ目でしたよね。
そう、折り紙の のりしろの『つなぎ目』
この歯状線のドッキングした『でこぼこしたつなぎ目』には、いくつかの小さな穴があります。これを『肛門陰窩』といいます。
ただこの穴(肛門陰窩)に、
→たまたま、ばい菌(主に大腸菌)が入ってしまうことがあるのです。
(まるでルーレットの穴にボールが入るようにどこの穴に入るかはわかりません!)
『肛門陰窩』=『ルーレットの穴』
そしてこの穴(肛門陰窩)は肛門腺という括約筋の方に伸びている管に繋がっており、
→ばい菌は肛門腺に沿ってさらに侵入して奥に入り込んでいきます。この感染したばい菌の入り口を『原発口』といいます。
そして、そのばい菌がトンネルを掘りながら結果的に肛門の周囲に巣を作ってしまう病気(ばい菌の巣)を『あな痔(痔瘻)』と言います!
ばい菌は地下にどんどん進み、あるところで『膿みの部屋(膿瘍腔)』を作り始めます。(膿瘍形成)これを『肛門周囲膿瘍』もしくは『直腸肛門周囲膿瘍』といいます。
ばい菌が活発になり、この『膿みの部屋(膿瘍腔)』が大きく膨張してくると炎症や腫脹が強くなり、熱が上がり痛みが強くなりってくるので、膿みを外に放出させる必要があります。
ただ 浅い(肛門周囲)膿瘍の場合は、局所麻酔にて穴を開けることで膿瘍は流出(切開排膿)できますが、深い(直腸肛門周囲)膿瘍の場合は、腰椎麻酔や全身麻酔を使用しないと痛みが抑えられず、また膿瘍の場所に的確に穴を開けることはできません。結果的に、膿みを出した穴を『二次口』と言います。
さて、ここで
『肛門周囲膿瘍』は必ず『あな痔(痔瘻)』になるのでしょうか?
肛門の周りに膿瘍が溜まる原因は2つあります。
1つは今まで話してきた
① 肛門陰窩からばい菌が入り肛門腺に感染した痔瘻の前状態
もう1つは
②皮膚から感染し膿瘍を形成した
いわゆる“おでき”がたまたま肛門の近くにできて化膿した場合です。病名で言うと皮脂腺からばい菌の入った『粉瘤(アテローム)』の化膿もしくは汗腺からばい菌の入った化膿性汗腺炎(膿皮症)の化膿です。
いずれも、まず皮膚を切開し膿みを出すという処置は一緒です。
腫れが引いた後、肛門との間に瘻孔(トンネル)があるかどうか(交通)の確認をすればいいのです。
ただ、腫れが引いて瘻孔(トンネル)が細い場合は触診ではわからない場合も多いのが現状です。
その場合は『肛門の超音波検査』もしくは『肛門部のMRI検査』にて肛門との交通があるかどうか調べるのが最も効果的です。
結果的に①ならば『あな痔(痔瘻)』の根本手術をする必要があります。
しかし、②の場合は必ずしも手術は必要なく
腫れを何度も繰り返す場合のみアテローム(粉瘤)切除や化膿性汗腺炎(膿皮症)手術が必要となってきます。